7.3 茎棟が教える偽物の数々 3

前掲の図版解説でも触れたように、区から目釘孔までの距離も肥前刀の隠れた掟である。75の近江守忠吉銘は区に近すぎるが、76の五字銘は遠すぎる。両者の中間ぐらいが肥前刀の目釘孔の一般的な位置である。

75 忠吉家の歴代で、国の宇を正字で切るのは二代と四代である。近江守は五代と六代であるが、この二工は略字を使う。銘を検討しても該当者が居ない。(刀 太刀銘 茎棟角)

76 八代忠吉を狙った偽銘で、或る程度の領域に達してはいるものの、この茎の姿形は承知出来ない。八代忠吉の茎仕立てはもっと垢抜けしている。(刀 太刀銘 茎棟角)

77 『新刀名作集』からの転載である。すでに詳述の通り、肥前刀の短い物は茎棟を角に仕立てるのが掟であり、肉が付いた短い物は偽物と判断して差し支えない。忠吉家の歴代でこの掟に背いた者は居ない。区下の「小肉棟」の注記は偽物を証明したことになるが、小肉棟の三文字がなくても、この二代忠広銘は論外である。(短刀 刀銘 茎棟小肉)

78 この銘は、本物の遠江守兼広と比べてみても、似たところが全くない端振りである。遠江守兼広が二人居た事実はないので、偽銘である。茎の錆状態に嫌味がないので、時代偽物であろう。(短刀 刀銘 茎棟丸)

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