7.1 茎棟が教える偽物の数々 1

肥前刀工の銘が太刀銘に入っている長い物で、茎棟が角になっていれば99%以上が偽物である。極言すれば、銘を検討する必要もなく偽物と判定しても構わない。また、短い物で茎棟に肉があれば疑うのが当然である。唯、前述の通り、傍系の諸工では一部例外もある。以下の三つの図版で好例を示すが、これは一部にすぎない。

70 初代忠吉住人銘の偽物。それほど高度なものではないが、初心者には危ないかも知れない。そこで役に立つのが茎棟の掟である。(刀 太刀銘 茎棟角)

71 この偽銘は上手である。相当慣れた愛刀家でも引っ掛かってしまうかも知れない。しかし茎棟が角であることに気付いてジックリ観ていると、いくつもの疑問点が浮上して来る。押形に茎棟を拓写している通り、指し表が削られて厚みが落ちており、いかにも不自然である。そこに元の銘があったことが想像される。(刀 太刀銘 茎棟角)

72 これは71と同作である。平成九年(一九九七)四月、通信販売の某情報誌で、誌上鑑定刀に使用された押形を転載。願わくば、鑑定刀に使う前に茎の指し表の不自然に気付いてほしかった。某団体の鑑定書が付いているとのことであるが、筆者が実見した昭和六十一年(一九八六)当時は鑑定書の類は何もなかった。71がその時の押形であるが、71と72が同作であることを知った上で敢えて掲載する。尚、この三代忠吉偽物については、後方、偽物を検証する項目で改めて述べる。

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