これまで述べて来た通り、忠吉系の肥前刀の茎棟には特有の約束事が存在していたが、中に掟通りの仕立てをやっていない者が数工いる。その中の一人は二代正広である。掲示の図版通り、正広各代の中で二代だけが脇指以下の短い物でも長い物同様に肉を付けた茎棟に仕立てている。
但し、下段の45・46のように角に仕立てた二代正広の脇指を時々見かけることがある。最後の46は、その銘振りから判断して三代備中大掾正永の代作、代銘であろうと思えるものの、45は受領間もない寛文七、八年(一六六七、六八)頃と目される銘である故、銘は自身銘と観て間違いなかろう。何かの事情で角の茎棟になったものであろうが、二代正広の茎棟の仕立て方は、短い物も刀同樣の肉が付いていることが原則である。
○脇指の茎棟正広の各代(上段)
33 初代 寛永十七年頃(一六四〇) 角
34 初代 寛永十九年頃(一六四二) 角
35 二代 延宝頃(一六七三~八一) 小肉
36 三代 元禄末頃(一七〇〇~〇四) 角
37 四代 享保頃(一七一六~三六) 角
38 五代 明和頃(一七六四~七二) 角
39 十代 慶応頃(一八六五~六八) 角
○脇指の茎棟 二代正広(下段)
40 寛文十年紀(一六七〇) 小肉
41 延宝頃(一六七三~八一) 小肉
42 延宝頃(一六七三~八一) 小肉
43 天和、貞享頃(一六八一~八八) 中丸
44 元禄前期頃(一六八八~九五) 小肉
45 寛文七、八年頃(一六六七、六八) 角
46 元禄後期頃(一六九六~九九) 角
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